愛ゆえに気付く命の尊さ/百人一首50「君がため…」

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百人一首の恋歌で、なんとなく親しみがわくのは、
陽成院の「恋ぞつもりて…」とこの一首だ。

君がため 惜しからざらし 命さへ 
長くもがなと 思ひけるかな

あなたのためなら、命も惜しくないと思っていた。
でも恋が成就した今は、いつまでも一緒にいたいと願っている。

藤原義孝(954~74)が愛する女性と結ばれた翌朝に詠んだとされる。
藤原氏の歴史物語「大鏡」にその人物像が描かれており、

「御容貌いとめでたくおはし、年頃きはめたる道心者にぞおはしける。」

美男で若者には珍しく仏道に精進する人物と賞賛されており、
とある夜、宮中を退出した彼の後をつけていくと、
満開の梅の下でお経を暗唱していた逸話が紹介されている。
月の光を浴びたその姿は、神々しいほど美しかったと。

また仏教的な無常観を色濃く反映した和歌も多く残していて、

思ひつつ まどろむほどに 見るよりも 
かかるうつつぞ はかなかりける

命だに はかなはかなも あらば世に 
あらばと思うふ 君にやあらぬ

いつまでの 命も知らぬ 世の中に 
つらき嘆きの ただならぬかな

自分の命が短いことを悟っていたかのようだ(享年21歳)。
そんな背景を踏まえて百人一首に戻ると、この歌がより美しく感じられる。

古くから文学には「愛に殉ずる」といった話の型があるが、
命をかけて愛することが、深く愛し合ったことの証明である、
という考え方にはイマイチ納得できないものがある。

だから愛ゆえに命の尊さに気づいた、と詠むこの歌にとても共感する。
少しでも長く一緒に生きていたい!と願うことこそが本当の愛なのだ。

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