鬼女の噂(50段)や猫の化け物「猫また」の噂(89段)に
翻弄される人々を横目に兼好法師は、
「世に語り伝ふること、真あいなきにや、多くは皆、空言なり。」
世間の噂の多くはみな嘘だ、と73段で分析をはじめる。
兼好法師によると、嘘や噂の根源は下記の3つに分類できる。
- かつあらはるるをも顧みず、口に任せて言ひ散らす
- 我も真しからずは思ひながら、人の言ひしままに、鼻の程、おごめきて言ふ
- げにげにしく、所々うちおぼめき、よく知らぬ由して、然りながら、つまづま合わせて語る空言
1.と2.はすぐにバレる嘘。
3.の嘘がやっかいで、もっともらしく、ところどころぼやかして、
つじつまを合わせて本当らしく語る嘘は見抜きにくい。
とくに、
- 我がため、面目ある様に言はれぬる空言
- 皆人の興ずる空言
自分にとって名誉になる嘘やみんなが面白がる嘘は、
反論する人も少ないから、なんとなく真実として流布してしまう。
世間の嘘にまどわされないために、
「ただ、常にある、珍しからぬ事のままに心得たらん、よろず違ふべからず。」
そうそう珍しい話なんてないと心得ておきなさい、と説く。
近年、世間に流通する嘘の代表例と言えば、
- 飲むだけで痩せる
- 聞くだけで英語が上達する
- 投資すれば必ずもうかる
こんなところだろうか。
世の中の「常識」って呼ばれるものにもご用心。
「音に聞くと、見る時とは、何事も変はるものなり。」
伝え聞いた話と自分で確認したものは違うことをお忘れなく。
コメント